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京都地方裁判所 昭和41年(ワ)23号 判決 1970年1月17日

原告

竹村昌己

原告

松下周一

右両名代理人

前堀政幸

香山仙太郎

被告

株式会社京都ホテル

代表者

金井寛人

代理人

田辺哲崖

復代理人

田辺照雄

主文

一、原告らと被告との間に雇傭関係が存在することを確認する。

二、被告は原告竹村昌己に対し、昭和四一年一月六日から同年四月一三日までの間および昭和四四年七月一日から同年一一月一九日までの間一カ月金五五、三〇五円、昭和四一年四月一四日から昭和四四年六月三〇日までの間一カ月金三三、一八三円の各割合による金員並びに、昭和四四年一一月二〇日から本判決確定に至るまで毎月末日の到来と同時に一カ月金五五、三〇五円の割合による金員を支払え。

三、被告は原告松下周一に対し、昭和四一年一月六日から同年九月九日までの間および昭和四四年三月二一日から同年一一月一九日までの間一カ月金六〇、六二二円、昭和四一年九月一〇日から昭和四四年三月二〇日までの間一カ月金三六、三七三円の各割合による金員並びに昭和四四年一一月二〇日から本判決確定に至るまで毎月末日の到来と同時に、一カ月金六〇、六二二円の割合による金員を支払え。

四、原告らのその余の請求を棄却する。

五、訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告ら

主文第一、第五項同旨および「被告は昭和四一年一月六日以降本件判決確定に至るまで、原告竹村昌己に対し、一カ月金五五、三〇六円、原告松下周一に対し、一カ月金六〇、六二二円の各割合による金員を支払え。」との判決。

二、被告

「原告らの請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決。

第二、当事者の主張

一、原告ら

(請求の原因)

(1)、被告はホテル業を営んでいたが、昭和三九年九月一日以来、一般旅客運送業(以下、ハイヤー業という。)をも併せ営んでいる。

原告竹村昌己は昭和三九年一二月五日に、同松下周一は同年同月七日にそれぞれ被告に雇傭され、いずれも三カ月間の試傭期間を経て本採用となり、ハイヤー業の自動車運転手として勤務していた。

(2)、被告は昭和四一年一月五日原告らに対し、原告らを解雇する旨の意思表示をなし、右意思表示は同日原告らに到達した。

(3)、右解雇(以下、本件解雇という。)は、正当な理由なしになされたものであるから無効である。

(4)(イ)、原告らは試傭期間中である昭和四〇年一月一八日京都ホテル自動車労働組合(以下、自動車労組という。)を結成して同組合に加入し、同組合は結成当初から被告との間で団体交渉をしてきた。

(ロ)、ところが、被告は右団体交渉を通して、自動車労組の活動が活発であることを知るや、同組合の存続を嫌忌するところとなり、訴外京都ホテル労働組合(以下、ホテル労組という。)との間にいわゆるユニオンショップ協定が締結されていることを奇貨としてホテル労組と意思を相通じ、右ユニオンショップ協定に名を藉りて、原告らを解雇したものであつて、右解雇は原告らが自動車労組の組合員であることの故をもつてなされたものというべきである。

(ハ)、従つて、本件解雇は労働組合法第七条第一号の不当労働行為にも該当するものとして無効である。

(5)、以上のとおり、本件解雇は無効であり原告らは現になお被告の従業員たる地位を有するものであるが、被告は本件解雇の意思表示をした翌日たる昭和四一年一月六日以降原告らに対して賃金を支払わない。

本件解雇当時における原告竹村の平均賃金は一カ月金五五、三〇六円(昭和四〇年八月、九月、一二月の三カ月間の平均賃金四八、五六八円に同年度の年間賞与額の一二分の一である金六、七三八円を加えたもの)であり、同松下の平均賃金は一カ月金六〇、六二二円(労働基準法第二〇条に定める三〇日分の平均賃金額五三、八八四円に昭和四〇年度の年間賞与額の一二分の一である金六、七三八円を加えたもの)であつた。

(6)、以上のとおり、本件解雇は無効であるにもかかわらず、被告は右解雇が有効であると主張して止まず、原告らに対して昭和四一年一月六日以降の賃金を支払わないので、原告らは、原告らと被告との間に雇傭関係が存在することの確認を求めるとともに、原告らと被告との間の雇傭契約に基づき被告に対して昭和四一年一月六日以降本件判決確定に至るまで原告竹村は一カ月金五五、三〇六円、同松下は一カ月金六〇、六二二円の各割合による賃金の支払を求める。

二、被告

(請求の原因に対する答弁)

(1)、(1)の事実はいずれも認める。

(2)、(2)の事実は認める。

(3)、(3)の事実は争う。

(4)、(4)の事実のうち、(イ)の事実は認めるが(ロ)および(ハ)の事実はいずれも否認する。

(5)、(5)の事実のうち、被告が原告らに対し昭和四一年一月六日以降の賃金を支払わないことは認めるがその余の事実は否認する。

(6)、(6)の事実のうち、被告が本件解雇を有効であると主張していることおよび原告ら主張の賃金を支払つていないことは認めるが、その余の主張は争う。

(被告の主張)

(1)(イ)、被告は、昭和三七年一一月一日ホテル労組との間に「被告の従業員は、勤務場所、職種の如何を問わず、組合への加入資格を取得した以上、組合に加入することを雇傭の条件とする」旨のいわゆるユニオンショップ条項を含む労働協約を締結した。

(ロ)、右ユニオンショップ条項は被告の全事業従業員に適用されるものであるところ、原告らはそれぞれ三カ月間の試傭期間を経て昭和四〇年三月本採用となり、ホテル労組への加入資格を取得したにもかかわらず、右組合に加入していない。

そこでホテル労組は昭和四〇年一二月、被告に対し右ユニオンショップ条項に基づき原告らを解雇するように要求したので、被告は右労働協約第六条を適用して原告らに対し本件解雇の意思表示をしたものであつて、本件解雇は有効である。

(2)、仮に本件解雇が無効であり、被告が原告らに対し賃金の支払義務を負担するものとしても、

(イ)、原告竹村は昭和四一年四月一四日訴外日本清装株式会社に入社し、昭和四四年六月三〇日までの間右会社に勤務して、同会社より別紙(一)記載のとおり総額金一、八一六、五七〇円の賃金の支払をうけ、原告松下は昭和四一年九月一〇日訴外小林長太郎商店に就職し、昭和四四年三月二〇日退職するまでの間、同店より別紙(二)記載のとおり総額金一、四〇三、〇〇〇円の賃金の支払をうけた。

従つて原告らが昭和四一年一月五日被告に解雇されて以後、他に就職して得た右収入金額は被告の支払うべき賃金額から控除さるべきである。

(ロ)、賃金債権は二年間これを行なわないときは時効により消滅するところ、原告らが被告に対し昭和四一年一月六日以降の賃金を請求したのは昭和四三年一一月であるから、昭和四一年一〇月分以前の賃金債権はいずれもその発生日より二年の経過とともに時効によつて消滅しており、被告は昭和四四年一〇月八日午前一〇時の本件第一七回口頭弁論期日において右時効を援用した。

三、原告ら

(被告の主張に対する答弁および反論)

(1)、被告の主張(1)に対し、

(イ)、(イ)の事実中、被告がホテル労組との間にユニオンショップ条項を含む労働協約を締結したことは認めるが、右ユニオンショップ条項が被告主張の性格を有することは否認する。

(ロ)、(ロ)の事実のうち、原告らが被告主張の時期に本採用になつたこと、原告らがホテル労組に加入していないこと、被告が原告らに対し解雇の意思表示をしたこと(ただし、その理由は「労働協約第五条、第六条により」とされている。)は認めるがその余の事実は否認する。

(ハ)(Ⅰ)、原告らはホテル労組の組合員ではないので、ホテル労組と被告との間で締結されたユニオンショップ協定の適用を受けることはあり得ない。

(Ⅱ)、仮に、右ユニオンショップ協定が未加入従業員に対しても適用されるものとしても、ホテル業とハイヤー業とは事業内容が異なり、場所および設備も別であり、ハイヤー部門を自動車部と称し、その責任者として自動車部長をおいて独立採算制をとり、他の部門との人事交流も認めず、就業規則もホテル業とは別のものを定めているので両者は事業場を異にするものである。

しかも、昭和三九年一二月二〇日被告およびホテル労組ならびにハイヤー業従業員の間で、被告とホテル労組との間に労働協約はハイヤー業従業員には適用しない旨の合意が成立した。

従つて、ハイヤー業従業員である原告らはホテル労組への加入資格を有しないので同組合と被告との間に締結されたユニオンショップ協定の適用をうけることはない。

(Ⅲ)、仮に、ハイヤー業従業員にもホテル労組への加入資格があるとしても、原告らはホテル労組への加入資格を有しない試傭期間中である昭和四〇年一月一八日に自動車労組を結成してその組合員となり、右組合は結成以来被告との間で、ホテル労組とは別個に団体交渉を行ない、厚生、共済機関の設置、年末一時金支払等について独立の協定を締結している。

従つて、自動車労組はホテル労組とは別個の独立した労働組合としての実体を有しており、被告も自動車労組の独立性を認めていたものであるから、被告とホテル労組との間のユニオンショップ協定は、自動車労組の組合員たる原告らには及ばない。

(Ⅳ)、仮に、被告とホテル労組との間のユニオンショップ協定の効力が原告らに及ぶものとしても、原告らは前記のようにホテル労組とは別個に自動車労組を結成してそれに加入し、被告との間で約一年間にわたつて団体交渉を行なつてきたものであり、その間被告もホテル労組も、自動車労組の独立性を認めておきながら、原告らがホテル労組に加入しないことの故をもつて原告らを解雇することは権利の濫用であつて許されない。

(2)、被告の主張(2)に対し、

(イ)、(イ)の事実のうち、原告らが被告主張のとおり賃金の支払を受けたことは認めるが、被告が原告らに対して支払うべき賃金額から右金額を控除すべきであるとの主張は争う。

原告らは本件解雇がなされた後、被告の主張するとおり、被告以外の雇傭主のもとに就労して賃金収入を得たけれども、その就労において原告らが提供した労務は、原告らが被告との間の雇傭契約に基づき被告に提供すべき労務とはその性質、内容が異なるので、民法第五三六条第二項但書にいう「自己の債務を免れた」労務そのものであると言えないのみでなく、前記労務は原告らが生活していくため止むを得ず提供されたものであつて、本来の生業として継続する意思のない臨時的な労務であり、それによつて得た収入も臨時的なものであるので、右収入は民法第五三六条第二項但書にいう「自己の債務を免れた」ことの当然の結果として生じた利益に該らないというべきである。

(ロ)、(ロ)の事実のうち、原告らが被告に対し昭和四一年一月六日以降の賃金を現実に請求したのが昭和四三年一一月であることは認めるが、その余の点は否認する。

雇傭関係の存在確認を求める裁判上の請求においては、その雇傭契約を原因として発生する賃金債権の存在が確定的に主張されており、従つて実質的には賃金債権に関する権利が行使され、賃金債権につき裁判上の請求がなされているのであるから、原告らが被告に対し昭和四一年一月一七日になした本件訴の提起によつて原告らの請求にかかる賃金債権についての時効は中断されたものというべきである。

四、被告

(原告らの反論に対する答弁)

原告らの反論に対し、

(Ⅰ)、(Ⅰ)の事実のうち、原告らがホテル労組の組合員でないことは認めるがその余の点は争う。

被告とホテル労組との間のユニオンショップ協定の効力は被告の全従業員に及ぶものである。

(Ⅱ)、(Ⅱ)の事実のうち被告の営むホテル業とハイヤー業の事業内容が異なり、場所や設備が別になつていること、ハイヤー部門を自動車部と称し部長をおいていること、独立採算制をとつていること、自動車部別則という就業規則を定めていることは認めるが、その余の事実は否認する。

決算は被告会社全般で行なわれており、就業規則の内容もホテル業のものと多くの点で共通している。

(Ⅲ)、(Ⅲ)の事実のうち、原告らが原告ら主張の時期に自動車労組を結成し、被告と団体交渉を行ない、協定等を結んだことは認めるがその余の点は否認する。

自動車労組は被告とホテル労組との間のユニオンショップ協定が締結された後に組織されたものであり、労働者は一つの組合にしか加入できないという理由はないので、原告らが自動車労組に加入しているからといつて前記ユニオンショップ協定の適用を受けないとはいえず、原告らがホテル労組への加入資格を有するに至つた後ホテル労組へ加入しない以上、被告としては前記ユニオンショップ協定に基づいて原告らを解雇すべき義務を負うものである。

(Ⅳ)、(Ⅳ)の事実のうち、原告らが試傭期間中に自動車労組を結成して被告と団体交渉を行ない協定等を結んだことは認めるがその余の点は争う。

第三、証拠<省略>

理由

第一雇傭関係の存否に対する判断

一事実関係

(一)、被告はホテル業を営んでいたが、昭和三九年九月一日以来、ハイヤー業をも併せ営むようになつたこと。原告竹村は昭和三九年一二月五日に、同松下は同年同月七日に被告に雇傭され、いずれも三カ月間の試傭期間を経て昭和四〇年三月に本採用となり、ハイヤー業の自動車運転手として勤務していたこと。原告らは本採用となつた後もホテル労組に加入していないこと。被告は昭和四一年一月五日原告らに対し、原告らを解雇する旨の意思表示をなし、右意思表示は同日原告らに到達したこと。被告は本件解雇は有効であると主張していること。

以上の事実はいずれも当事者間に争いがない。

(二)、<証拠>を総合すれば、

被告は昭和三七年一一月一日、ホテル労組との間に有効期間を昭和三九年一〇月三一日までの二カ年間と定めて労働協約(以下、本件協約という。)を締結し、右協約は昭和三九年一一月一日より一カ年と三〇日間自動更新された後、さらに昭和四〇年一一月三〇日、期間を三カ月と定めて更新されたこと。本件協約第五条には「この協約は会社、組合及び会社の従業員である組合員に適用する」、第六条第一項には「会社の従業員は次の各号の一に該当する者を除き、組合に加入しなければならない。(一)支配人、副支配人、課長以上の職位にあるもの。(二)人事経理関係の係長以上の職位にあるもの。(三)秘書並びに企業渉外課勤務のもの。(四)試傭見習期間中の者(入社後三カ月間)及び社命により他会社に出向中の者。(五)嘱託、臨時補助要員、期間を定めて雇傭された者、及び日々雇い入れられる者。(六)その他会社と組合が協議して決めた者。」、第七条第一項には「会社は組合から除名された者は原則として解雇する。」同条第二項には「前項に該当する者を生じたときは、組合は遅滞なく会社に文書をもつて通知する。」、第九条第一項には「会社は組合員の労働条件に関する主要な事項はすべてこの協約並びに附属協定に於いて定める。」、同条第二項には「この協約並びにその附属協定に定めのないものについては就業規則(その附属規定を含む)に於いて定めるところによる。」との規定があること。本件協約締結に際し、被告およびホテル労組は事業場による適用範囲の制限を考えてはおらず、被告の経営する高島屋営業所および西京極体育館のランチルームの従業員に対しても本件協約が適用されていること。本件協約第七条第一項の規定を決定するに際し、被告作成の原案には未加入者および脱退者も解雇される旨の規定があつたけれども、ホテル労組が、従業員はすべてホテル労組に加入しなければならないので未加入者、脱退者はあり得ない旨主張したので、未加入者および脱退者については規定するまでもないという趣旨で、除名された者についてのみ規定したものであること。

以上の事実が認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

次に、<証拠>を総合すれば、

被告と原告らとの間に締結された労働契約書第一条には「乙(原告ら)の賃金、就業、懲戒その他労働に関する条件は下記の各号の通りである。1他の従業員と共通し社則(法定就業規則に該当するもの)に定めのあるものはそれに従う。2他の従業員と共通するもので労働協約の定めのあるときはその定めるところによる。但し、労働協約が締結されないときは社則に従う。3他の従業員と共通せぬもの及び個々の場合に定める必要のあるものは社則の定める指揮監督又は指示権を有する者の処理するところによる。」との記載があること。被告が昭和三九年一二月一日に定め、同日から実施した「株式会社京都ホテル就業規則自動車部別則」は自動車部従業員に対する労働条件を定めるものであり、その第二九条において解雇の基準として一二項目を掲げているが、その中にはユニオンショップ協定に関連する事項は規定されていないこと。被告とホテル労組とは昭和三九年一二月末ごろ、労使協議会において、「自動車部従業員に対しても原則として本件協約を適用する。適用しない部分については両者審理のうえ決定する。」旨の確認をしたこと。被告会社取締役園四郎、同総務部長星野公春は被告会社の代表として、ホテル労組の代表である同労組三役とともに、昭和四〇年二月一二日自動車部を訪れ、右園四郎は、自動車部従業員に対し、「自動車部従業員にも本件協約を適用する用意がある。」旨通告したこと。前記労使協議会における確認に基づき、被告とホテル労組およびホテル労組ハイヤー支部の間で昭和四〇年三月一九日、本件協約のうちホテル労組ハイヤー支部に適用される部分と適用されない部分について合意が成立し、それによると本件協約第五条ないし第七条は適用される部分に属していること。本件解雇当時、自動車労組に加入していない自動車部従業員の中にはホテル労組支部に加入している者がいたこと。ホテル労組は昭和四〇年一二月一〇日被告に対し、本件協約第五条、第六条に基づき、ホテル労組へ加入していない原告らを含む八名の者を解雇するよう文書で申し入れたこと。被告は原告らに対し「労働協約第五条並びに第六条の定めにより」との理由で本件解雇の意思表示をしたが、昭和四一年一月一三日原告らに対し、本件解雇の理由を「労働協約第六条の定めにより」と訂正する旨の通知をしたこと。

以上の事実が認められ、証人中村清、同萩原昇の各証言のうち、「被告は自動車部従業員には本件協約を適用しない方針をとつていたので、自動車部従業員はホテル労組へ加入することはできなかつた。」旨の証言部分、および、原告竹村本人の「昭和四〇年二月一二日玉井政夫がホテル労組三役とともに自動車部を訪れた。」旨の供述は前掲各証拠に照したやすく措信できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

(三)、ハイヤー業とホテル業とは事業内容が異なり場所や設備も別であること。ハイヤー部門を自動車部と称し、責任者として部長をおき、独立採算制をとつていること。ハイヤー部門においては自動車部別則という就業規則を定めていること。

以上の事実はいずれも当事者間に争いがない。

<証拠>によれば、

被告会社社長は昭和四〇年一月二六日ホテル各部課および自動車部宛に、「自動車部運営についてはホテルと分離し、自動車部長がこれに当るものとする。」旨の自動車部運営に関する通達を出したこと。ホテル部門に勤務していて自動車部に出向した者は玉井政夫と中村清の二名だけであること。

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

(四)、原告らは試傭期間中である昭和四〇年一月一八日に自動車労組を結成して同組合に加入したこと。同組合は結成当初から被告との間で団体交渉を行ない、協定等を結んできたこと。は当事者間に争いがない。

<証拠>を総合すれば、

自動車労組は自動車部従業員であつた山口ヨシハル、萩原昇の解雇問題を契機として結成されたこと。結成当初は自動車部従業員約三〇名のうち一六名が加入していたこと。組合員はその後漸減して本件解雇当時は一一名になつていたこと。京都府地方労働委員会は昭和四〇年三月五日、自動車労組は労働組合法第二条および第五条第二項の規定に適合するものである旨の決定をしたこと。同組合は結成当初から昭和四〇年末までの約一年間にわたつてホテル労組とは別個に独立して被告との間で、賄食堂の利用、交通事故による罰金の支払、従業員の配置転換、解雇等の労働条件に関して団体交渉を行ない、殊に原告らが本採用になつて後の昭和四〇年夏には、夏季手当の支給について、同年末には年末一時金の支給について、それぞれ団体交渉を行ない、右年末一時金の支給については、自動車労組と被告との間において昭和四〇年一二月四日協定書が作成されたこと、

以上の事実が認められ、右認定を覆えすに足る証拠はない。

二本件解雇の正当理由の有無に対する判断

(一)、本件協約の適用範囲について

(1)、前記一(二)で認定した通り本件協約には被告会社全従業員にその職種又は勤務場所を問わず適用される旨の文言があり右第七条第一項の成立過程を考慮すれば、右第七条第一項の組合から除名された者を解雇する旨の規定は単なる例示にすぎず、その本来の趣旨は除名された者のみならず、いやしくも被告の従業員となつた者でホテル労組の組合員でない者は一定の者を除き原則として解雇する趣旨の規定であると解されるので、右被告の主張を肯認することができ、原告らがホテル労組へ加入していないからという理由では右ユニオンショップ協定の適用を免れることはできない。

(2)、原告らは、「ホテル業とハイヤー業は事業場が異なるうえ、被告およびホテル労組ならびにハイヤー業従業員との間でハイヤー業従業員には本件協約を適用しない旨の合意が成立したので、原告らにはホテル労組への加入資格がなく、本件ユニオンショップ協定の適用は受けない。」旨主張するのでこの点につき判断する。

原告らが右に主張するような合意の成立を認めるに足りる証拠はない。

また、前記一(三)記載の事実によれば、ホテル業とハイヤー業とは事業場を異にするものであるということができるけれども、労働組合法第七条第一項但書の「特定の工場事業場」とは一の工場事業場に限定された趣旨ではなく、特定していさえすれば、複数の工場事業場であつてもさしつかえないものと解するのが相当であるから、ユニオンショップ協定は、必ずしも一の事業場についてのみ適用されるものと限られているわけではなく、本件のようにユニオンショップ協定を締結している会社が新たな事業を開始したような場合において、新たな事業場の従業員に対して従前のユニオンショップ協定が適用されるか否かは、特段の協定がない限り、当該協約の規定の解釈により決定されるべきであるところ、本件協約第六条は、事業場に関する制限を設けずに、会社の従業員は組合に加入しなければならない旨規定しており、自動車部の従業員がホテル労組へ加入することを阻むような特段の協定の存在を認めるに足りる証拠はなく、かえつて前記一(二)で認定した事実を総合すると、原告らにはホテル労組への加入資格があつたことが認められる。従つて、原告らはホテル労組への加入資格を有しないので本件ユニオンショップ協定の適用を受けないという原告らの主張は理由がない。

(二)、原告らは、「原告らは自動車労組の組合員であるから本件ユニオンショップ協定の適用を受けない。」旨主張するのでこの点につき判断する。

前記一(四)で認定した事実によれば、自動車労組はその組合員が一〇数名であつたとはいえ、被告との間で、原告らが本採用になつた後も、原告らが被告から本件解雇の意思表示を受けるまでの間ホテル労組とは別個に独立して団体交渉を行ない、自動車労組の組合員の労働条件に関して協定を締結してきたものであるから、自動車組合は、自主性を有し、労働法上保護に値する労働組合であつたというべきである。

前記二(二)判定のように原告らは試傭期間経過後はホテル労組への加入資格を有するものであるが、右のとおり原告らが試傭期間を終えた昭和四〇年三月以降には、被告会社の中にホテル労組と自動車労組の二組合が併存していたものである。

このように同一企業内に二組合が併存している場合、本件のようにたとえ一の組合が、他の組合と会社との間にユニオンショップ協定を締結した後に結成されたものであつてもその一方が締結しているユニオンショップ協定調方の組合員には及ばないものと解するのが相当である。けだし、憲法第二八条がすべての労働者に対して団結権及び団体交渉権を保障している点からして、労働組合法第七条第一号但書においてユニオンショップ協定が不当労働行為とならない旨規定されている趣旨は、労働者の団結権をより強く保障することにあるのであつて、一つの団結をもつて他の団結を圧迫することを認容しているものではないと解すべきところ、当該労働者が自主性のある労働組合に加入して憲法により保障された団結権並びに団体交渉権を行使しその組合の力で自主的に労働条件の改善を図つている以上、他の労働組合が使用者との間に締結しているユニオンショップ協定の効力を右労働者に及ぼすことは、締約組合の団結をもつて他の労働組合の団結を圧迫する結果となり、とうてい許されないものといわなければならないからである。

被告は、「労働者は一つの組合にしか加入することができないわけではないから、原告らは自動車労組に加入しているとしてもそれとは無関係に本件ユニオンショップ協定の適用を受け、ホテル労組へ加入しなければならない。」旨主張するけれども、一企業内に二組合が併存する場合は概ね両者の利害が対立する場合であるから、締約組合に加入しない以上解雇されても止むをえないと解することは結局未締約組合の団結権を侵害することになるので、右の被告の主張は理由がない。

そうだとすれば、原告らは、自動車労組の組合員であるが故に、本件ユニオンショップ協定の適用を受けないものということができる。

(三)、叙上の理由により、原告らに対してはユニオンショップ協定の効力は及ばないというべきであるにもかかわらず、本件解雇は、右ユニオンショップ協定を適用してなされたものであるから、本件解雇に正当な理由が存在するものということはできず、従つて自余の点につき判断するまでもなく、本件解雇は無効にして、原告らと被告との間には、なお雇傭関係が存在するものといわなければならない。

三結論

被告が、原告らに対する本件解雇が有効であると主張していることは当事者間に争いのないところであるから、原告らの本訴請求中、原告らと被告との間に雇傭関係が存在することの確認を求める部分は相当として認容しなければならない。

第二賃金支払請求に対する判断

一賃金請求権の存否に対する判断

原告竹村が昭和三九年一二月五日、同松下が同年同月七日被告に雇傭され、いずれも三カ月の試傭期間を経て昭和四〇年三月本採用となり、ハイヤー業の自動車運転手として勤務していたこと。被告は昭和四一年一月五日原告らに対して本件解雇の意思表示をなし、同年同月六日以降の賃金を支払わないこと、被告は本件解雇は有効であると主張していること。はいずれも当事者間に争いがなく、成立に争いがない甲第一五号証の記載によれば、原告らは自動車労組を通じて本件解雇の撤回を求めたけれども、被告はこれに応じなかつたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

以上の事実によれば、被告は昭和四一年一月六日以降、原告らの就労を拒否していることが認められ、それに反する証拠はない。ところが本件解雇は前記のとおり、正当な理由を有せず、無効である。

このように無効な解雇がなされ、使用者によつて就労が拒否された結果、労働者が労務に服することができなかつた場合には、使用者の責に帰すべき事由による履行不能として民法第五三六条第二項本文の適用があるものと解すべきであるから、原告らは被告に対し昭和四一年一月六日以降の賃金を請求する権利を有するものというべきである。

二賃金債権の時効消滅の主張に対する判断

被告は、「昭和四一年一月六日以降同年一〇月分以前の賃金債権は時効により消滅した。」旨主張するのでこの点につき判断する。

原告らが昭和四一年一月一七日被告に対し、原告らと被告との間の雇傭関係存在の確認を求めて本件訴訟を提起したことは当裁判所に顕著な事実である。

賃金債権は雇傭関係の存在を前提として発生するものであり、雇傭関係存在の確認を求める訴は雇傭関係という基本的法律関係より発生する賃金債権を実現する手段としての性質を有するものであつて、このような手段に出でたる場合においては、たとえ賃金債権自体について給付訴訟を提起しなかつたとしても、これをもつて「権利の上に眠る者」ということはできないから、原告らの昭和四一年一月六日以降の賃金債権についての時効は同年同月一七日になされた本件訴の提起により中断されたものと解するのが相当である。

従つて爾余の点につき判断するまでもなく、被告の右主張は理由がない。

三賃金額の算定

解雇が無効である場合の賃金額は、特段の事情がない限り解雇前三カ月間の平均賃金を基礎として計算するのが相当であり、賞与が支給されている場合はその金額は右賃金額に加算すべきである。けだし、使用者が労働者に対して支払う金員は、使用者と労働者との間の使用従属関係のもとで行なわれた労働に対する報酬として支払われたものであるから、賞与の名義で交付されたとしてもその実態は賃金であるというべきこと労働基準法第一一条の規定に照し明らかであるからである。

これを本件についてみるに、<証拠>を総合すると、

原告らの賃金は毎月一六日から翌月の一五日までを一期間として支払われていたこと。原告らの賃金算定に当つては水揚高に比例する算定方法が加味されていたこと。原告竹村は昭和四〇年一〇月四日から約三週間にわたつて虫垂炎を患い、その間休業したので同原告の水揚高は平常時と比較して低下していること。原告竹村の右疾病と関係がない解雇前の三期間即ち昭和四〇年七月一六日から同年八月一五日までの間の賃金五一、〇〇一円、同年八月一六日から同年九月一五日までの間の賃金四五、九三三円、同年一一月一六日から同年一二月一五日までの間の賃金四八、七六八円の平均賃金は月額金四八、五六七円であること。原告松下の労働基準法第二〇条所定の解雇予告手当額は金五三、八八四円であること。原告らは昭和四〇年度内に賞与として金八〇、八五〇円を支給されたこと。以上の事実が認められ、右認定に反する原告竹村本人の「京都ホテルでは給料の締切は二〇日である」旨の供述は、右甲第二〇号証の記載に照してたやすく措信できず、その他に右認定を左右するに足る証拠はない。

なお、<証拠>には、いずれも、原告竹村の労働基準法第二〇条所定の解雇予告手当額は金三三、五八六円である旨記載されているけれども、これは前記疾病により賃金が低下した期間を除かずに計算されたものであることが窺われるので本件において被告が右原告に支払うべき賃金額の算定の基礎として採用することはできない。

そうだとすると、原告竹村の賃金額は前記金四八、五六七円に年間賞与額の一二分の一である金六、七三八円を加えた金五五、三〇五円であり、原告松下の賃金額は前記金五三、八八四円に年間賞与額の一二分の一である金六、七三八円を加えた金六〇、六二二円であると解するのが相当である。

四原告らの償還義務の存否およびその範囲に対する判断

労働者は労働日の全労働時間を通じ使用者に対する勤務に服すべき義務を負うものであるから、使用者によつて不当に解雇された労働者が使用者の受領拒絶により給付を免れた労働力を他に転用して得た利益は、たとえ他に提供した労務の性質が本来提供すべきであつた労務の性質と異なるものであつたとしても、また、生活を維持するために止むをえず他に就労して得たものであつたとしても、その利益が副業的なものであつて解雇がなくても当然に取得しうる等特段の事情がない限り、民法第五三六条第二項但書にいう「自己の債務を免れたことにより得た利益」としてこれを使用者に償還すべきものと解するのが相当である。

本件解雇があつた後において、原告竹村は昭和四一年四月一四日訴外日本清装株式会社に入社し、昭和四四年六月三〇日に至るまでの間右会社に勤務し、同会社より別紙(一)記載のとおり賃金の支払を受け、原告松下は昭和四一年九月一〇日訴外小林長太郎商店に就職し、昭和四四年三月二〇日退職するまでの間右商店より別紙(二)記載のとおり賃金の支払を受けたことは当事者間に争いがない。

原告らは右収入はいずれも臨時的なものである旨主張し、原告竹村、同松下本人はそれに添う供述をしているけれども、右各供述は前記収入を得るために就労した期間および収入金額に照して措信できず、他に右収入が臨時のものであることを認めるに足る証拠はない。

そうだとすると、原告らは被告に対し解雇期間内に得た右利益を償還すべき義務を負つているものといわなければならない。

ところで、労働基準法第二六条は労働者が民法第五三六条第二項にいう「債権者の責に帰すべき事由」によつて解雇された場合にも適用があると解すべきであるから、本件のように、労働者が使用者に対して解雇期間中の賃金請求権を有すると同時に右期間中に得た利益を償還すべき義務を負つている場合においては、使用者は労働者に対して少くとも賃金額の六割は支払わなければならないけれども、それを超える部分については償還されるべき利益を予め控除することができるものと解するのが相当である。

従つて、被告は原告竹村に対し、昭和四一年一月六日から同年四月一三日までの間および昭和四四年七月一日から本件口頭弁論が終結した日であること当裁判所に顕著な同年一一月一九日までの間は前記認定の賃金全額の一カ月金五五、三〇五円、昭和四一年四月一四日から昭和四四年六月三〇日までの間は別紙(一)記載のとおり前記認定の賃金額の四割即ち金二二、一二二円以上の利益を得ているので、賃金全額の六割に相当する一カ月金三三、一八三円の各割合による賃金を支払うべき義務があり、原告松下に対し、昭和四一年一月六日から同年九月九日までの間および昭和四四年三月二一日から本件口頭弁論が終結した日であること当裁判所に顕著な同年一一月一九日までの間は前記認定の賃金全額の一カ月金六〇、六二二円、昭和四一年九月一〇日から昭和四四年三月二〇日までの間は別紙記載のとおり前記認定の賃金額の四割即ち金二四、二四九円以上の利益を得ているので(昭和四一年九月分の収入は金二〇。〇〇〇円であるが、これは同年同月一〇日から同年同月末日まで二一日間のものであるから月額金二四、二四九円以上の利益を得たものということができる。)賃金全額の六割に相当する一カ月金三六、三七三円の各割合による賃金を支払うべき義務がある。

なお、原告らは被告に対し本件口頭弁論が終結した昭和四四年一一月一九日の翌日から本件判決確定に至るまでの間の賃金も請求しており、右賃金債権は未だその弁済期が到来していないものであるが、被告は本件解雇は有効であると主張して原告らの就労を拒否している態度に徴して、予じめその請求をなす必要性が肯認されるから、被告は原告竹村に対し、昭和四四年一一月二〇日から同原告との間の本件判決確定に至るまで毎月末日の到来と同時に一カ月金五五、三〇五円、原告松下に対し昭和四四年一一月二〇日から同原告と被告との間の本件判決確定に至るまで毎月末日の到来と同時に一カ月金六〇、六二二円の各割合による賃金の支払義務を負うものといわなければならない。

第三結論

以上のとおりであるから、原告らの雇傭関係存在確認を求める請求および賃金支払を求める請求のうち前記第二、四記載の部分は理由があるのでこれを認容し、その余の部分は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(山田常雄 常安政夫 赤木明夫)

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